まだむたん(サンゾロ)


 縺れた脚に倣った体は、重力に従順だった。
 重い音が二度響く。一度は己、一度は相手。
 あァ情けねェと、眼を閉じた。




熱と寒さと欲望と。




 冬海域の冬島周辺、気候は冬。近年稀にみる大寒波の夜。極寒も極寒、これだけ寒いことを強調している現状が、どれ程なのかお察しして頂きたい。そんなとてつもなく寒い海を、ぼやんとした火が揺らめいている。真っ暗闇の波間に浮かぶ一つの灯りは、船首を獅子と認めた、一艘の海賊船。

 昔に比べ随分と広くなったキッチンで響く音は二つ。一つはゾロが、二つ目はサンジが。仄かに橙色をした小さな明かりは外に漏れてはいない。波間に漂うあの火は、少し上の方で仲間が灯す見張り台の火。再度言おう、キッチンの、二人を照らす僅かな明かりは外に漏れてはいないのだ。二人がここで向かい合っていることなど誰も知らない。否、ゾロが下敷きで、馬乗りのサンジが憎たらしくほくそ笑んでいることなど、誰も知らない。
「抵抗しねェな」
「──…うるせェ」
 掠れた声が自身の耳に届いた。体中が軋む。この海域に突入し、徐々に寒くなっていく数日の経過の中、ナミとサンジとロビンとウソップが風邪を引いた。風邪という病気ではあるが、気候に見合った人間の体の正常な働きと言えるのかもしれない、風邪を引かなかった面子を考えれば酷く自然と。幸い、チョッパーの薬が効き、四人とも早いうちに風邪菌を退散させて今日に至る、のだが。一名、遅れて不調を訴えた男がいた。他でもない、ゾロだ。残りの面子より多少人間らしい体の機能を携えていたことは証明されたが、久しぶりの体調不良に本人は酷く参っていた。事実、余りの怠さで目の前の男を押しのけることを諦めた程。
「たまにゃァ悪くねーか」
 サンジの声がどこか遠くに聞こえた。理解しかねて頭を上げるとすぐ目の前にあの憎らしい笑み。反論を試みて開いた口は、恰好の獲物とばかりに相手の口内に吸い寄せられる。熱の所為で湿温の増した吐息が互いの唇の隙間から零れ落ちた。同時に、小さな吃音も。
「……ッ…」
「ゾロ」
 一度、名を呼ばれて再度口づけ。苦しさの余り眉根を顰めて示す嫌悪も、途切れて落ちる嬌声が効果を無効にする。サンジの手はゆっくりとゾロの上を滑り、そのカタチを堪能した。憎らしいと思っていた笑みが満足げに変わるのを見て、ゾロは小さく息を漏らす。熱ィ、漏らした息の隙間に言葉を挟んだ。
「上がった熱は軽く運動して汗と一緒に流せって知ってっか」
「……エロガッパが…」
「あー…陳腐な台詞だったな、悪かった」
 悪かったよと囁き混じりに湿った口づけ。険しく見える表情も、その唇を拒まない。怠いからなのか、諦めなのか、それとも受け入れたのか。ゾロの髪に掌を添えたサンジは、緩く優しく撫でつける。対峙する、体調の悪い最愛の人へ、欲望と相まった気持ちを伝える言葉を、ひとつひとつ探した。
「なァ」
「………?」
「おれ寒ィから、熱ィてめェン中に挿入れてンだけど」
「っ、」
 ひとつひとつを探した結果そうなって、体を滑る手が床と相手の臀部を割り、自身の欲を満たす場所へと届く。クソコック、喉に熱と唾液が張り付いて言葉にならなかった。代わりに出たのは互いの熱を煽るような、低い吐息。深い笑みを落としたサンジに違うと伝えることができないまま、何度目か、また僅かに開いた口唇を、甘く舐めとられた。






マダムにお誕生日(一日遅れ)
数日前にサゾの話をしたのでちょっと頑張ったけど、サンジがあれあれ??